ちり、とランプの芯が燃える音が、静かな部屋に小さく響いた。窓の外の微かな葉擦れの音さえも聞こえてきそうな、静かな夜である。時たま、ページをめくる音が重なる。
広いベッドにクリスとヒューゴ、二人並んで本を読んでいた。互いに目の前の本に夢中になっているせいか、会話はない。が、二人の間の空気はどこまでも穏やかで…静かではあるが、冷たさには程遠い。
やがて、読み終わったクリスが、長々と息を吐き出すとぱたりと本を閉じた。スイッチが入ったように顔を上げて、時計を見ると、思ったよりも遅かった。明日のことを考えれば、もうとっくに寝なければいけない時間を通り過ぎている。
「ヒューゴ」
「んー」
つん、と肩先をつついてみたものの、返ってきたのは生返事だった。先ほどまでのクリスだって、呼びかけられたら同じように適当な返事をしていたに違いない。それを思うと、強く呼んで邪魔をするのも気が引けた。
秋の夜の過ごし方は様々だ。夢中になって本を読んで、明日辛い思いをするのもまたいい経験だろう。分かっていても惹きつけられるのが、書物と言うものの持つ魔力だ。たまには、その魅力をこころゆくまで堪能するのもいいだろう。
ヒューゴが文字を追うのに苦労しないよう、ほんの少しだけランプの芯を絞る。寒くならないよう、きっちりとベッドの中にもぐりこんだ。この頃、明け方がとみに寒くなっているから用心しておかなければ、風邪を引いてしまう。
「おやすみ」
「ん」
少し薄暗くなった室内で、短い挨拶をかわす。それを最後に、クリスはそっと瞼を閉ざした。
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