はぁっと熱い息を零して、クリスは潤んだ瞳をぼんやりと天井に向けた。体内にわだかまる熱はクリスの意識を惑わせ、視界が不自然にゆらゆらする。かといって目を閉じれば、熱が出た時特有の、理不尽な悪夢がのしかかってくる。
昨日、ヒューゴの忠告をきいて、毛布をかけていればよかったのだが…こうして風邪を引いてしまった以上、今更ではある。今となっては暖かくして、栄養と睡眠をしっかりとり、病魔を身体から追い出すほかはない。
ふわり、ゆらゆら。
夢と現のはざまをたゆたうような時間がどれぐらい過ぎたころか、ふとクリスはゆっくりと目を開いた。全身が気だるい熱っぽさに包まれているのに、なぜか額にひんやりとした感触を感じたのだ。誰かが濡れたタオルをのせてくれたのかとも思ったが、質量はまったく感じられない。視界をめぐらせると、陽炎のような人影が見えた。
顔ははっきりと見えないが、蒼と金の色彩を纏ったその姿にああ、とクリスは小さく呟いた。清らかな水のイメージが脳裏に広がる。
こんなときになんだけれど、幸せだ、と強く思う。
棄てられたと、ずっと寂しく思っていたけれども。いなくなってしまった今でも、紋章を通じてこうして見守っていてくれているのだから。
すぅっと誘われるように双眸を伏せる。
「ありがとう、父様……」
明日にはきっと、風邪は治っているだろう。
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