さらり、と行過ぎた風が前髪を揺らす。誘われるようにふわりとロディは眼を覚ました。暖かい光が、樹上から少しずつ零れ落ちている。いつの間に寝てしまっていたのか、自分自身記憶がなく、ロディはぼんやりと空を見上げた。ぽかりと浮いている白い雲が、ゆっくりゆっくり移ろっていく。
セシリアと2人で昼食をとって。サンドイッチの具は何が一番美味しいか、そんな他愛のない話で盛り上がって、お腹が一杯になって。
そこから記憶がふつりと切れているということは、つい眠ってしまったのだろう。この陽気では仕方がないが、ザックにばれたら緊張感がないと怒られるかもしれない。
「……あれ?」
そこでようやく、隣に座っていたはずのセシリアに気づいた。ゆっくりと視線を横にめぐらせると、同じ高さにあるはずの横顔が見当たらない。
かわりに。
「…セシリア…」
あまりにも心地よい重みとぬくもりだったため、ロディ自身気づいていなかったが、ロディの足の上に、セシリアは上半身を投げ出すようにして眠っていた。生憎とロディからは後頭部しか見えないが、きっと幸せそうな寝顔をしているに違いない。規則正しく、緩やかに上下する肩は、明らかにロディやザックよりも華奢で、触れるのさえ躊躇われてしまう。
アーデルハイドの公女。ガーディアンの巫女。本来ならばこのように触れ合うことさえ赦されないだろう彼女が、今ここで眠っているのは、幾つかの偶然と必然の積み重ねに過ぎない。歯車が少し違えば、彼女と出会うことすらなかっただろう。
それはとても味気ない人生だと、今のロディなら断言できる。
「しょうがないな…」
小さな呟きは、セシリアの重みに気づかないほど極自然に彼女のそばにいる自分に対してか。あるいは、呆れるほどに無防備に眠るセシリアに対してか。それはロディ自身でもわからないけれども。
くすり、と笑みを零しながら、ロディはもう一度空を仰いた。ザックが来るまでまだ時間は十分にある。少しでも今の幸せが長く続くよう祈りながら、ロディはゆっくりと瞼を閉ざしたのだった。
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